2024年2月25日日曜日

安倍公房「壁」

  安倍公房「壁」を読む。指揮者の小澤征爾が先日亡くなったとき、満州出身で共通する基盤を持つ文化人の一人として紹介されていたのに興味を持ち、今まで読んだことがなかったので手に取った。またその紹介では小澤征爾の指揮のことをクラッシックは堅苦しいものでなく楽しくなくてはいけないとの評であった。

 多数ある作品の中で、高校教科書にもとりあげられていた「赤い繭」のある「壁」を選ぶ。「壁」は最初の前衛的代表作で、第25回芥川賞を受賞した。「S・カルマ氏の犯罪」「バベルの塔の狸」「赤い繭」の中編と短編からなる。「S・カルマ氏の犯罪」は名前を失った主人公が裁判にかけられ、そこから逃げたり、最後に壁になる話。話についていくのが大変で、読後に「不思議の国のアリス」を連想する。「バベルの塔の狸」は主人公が狸のような動物に影をとられ、その結果透明人間になり、狸に連れられてバベルの塔に行き、危機的なところを時間彫刻器で時間を戻し影がとられるのを防ぐ話。杜子春狸として中に出てくるが、読後に「杜子春」に似ていると思った。「赤い繭」は短編集で「赤い繭」「洪水」「魔法のチョーク」「事業」からなる。SFショートというと星新一だが、安倍にくらべると星には不条理またハチャメチャという要素が少ないような気がする。



2024年2月23日金曜日

「フォッサマグナ」

 「フォッサマグナ 日本列島を分断する巨大地溝の正体 」ブルーバックス,藤岡 換太郎 (著)を読む。日本の地史の最大の問題であるフォッサマグナについて正面から取り上げた普及書。

 フォッサマグナは北部と南部に分けられる。北部は日本海拡大の際の東日本と西日本が観音開きの様に移動した際、中央部に巨大な地溝が生じたのが元になる。この際糸魚川静岡構造線は正断層であった。火成活動を伴う6000m強の堆積物ができる。この運動によって日本列島の逆「く」の字配置ができる。またこの後太平洋プレートによる圧縮場となり、糸静線は北米プレートとユーラシアプレートの境界で逆断層になる。日本海の拡大は四国海盆拡大にも関係したプルームから枝分かれしたものが原因の可能性があり、拡大終了後圧縮場の下で日本海盆の東日本への沈み込みが始まった。

 南部は観音開きの先端にあたるが、ここではトランスフーム断層であったフィリピン海プレートの境界が沈み込み境界に変わり、その東端の太平洋プレートの境界にあった島弧が次々に衝突をはじめる。御坂山塊、丹沢山塊、そして現在伊豆地塊が衝突および付加をした。これに伴いプレート境界は次ぎ次に南にジャンプし、またその衝突に伴って境界では厚い堆積物ができた。またこの一連の衝突によって基盤の中古生界の八の字構造が成立した。


2024年2月6日火曜日

「日本近代化と民衆思想」

  「日本近代化と民衆思想」 (平凡社ライブラリー) 安丸 良夫著を読む。日本人の意識構造の変化として、江戸時代に商品経済が発達する以前の庶民は因果応報的な、前世での行いが今の生活を規定するとの世界観を持っていた。商品経済が発達するとそれでは説明できない没落をする人々が現れ、そうならない生活をする生活指針として勤勉、倹約、謙譲、孝行などが貴ばれるようになった、これは儒教と功利主義を基礎とするものである。そしてこれが明治時代の日本の近代化を成功させる思想的背景になったとされる。徳目は西洋キリスト教社会と似ているがこちらは神との個人的な関係を基礎とするものである。日本社会を理解するのに良書との指摘がユーチューブであり手にとった。

 本書は江戸時代から明治にかけての、庶民の価値観、世界観を分析したものである。素材としては新興宗教(富士講、丸山教など)、一揆や打ちこわしなどを通じて封建制度の中でいかに生活の矛盾を彼らが解決しようとしたかの精神性や行動が調べられ、その唯心論や封建制度を前提とする戦いの限界が語られる。民衆が行動を起こす際には新たな世界観や哲学が必要であることが感じられた。この手の分野は初めてなのでやや理解が追い付かなかった。またこのような分野が研究対象になっていたのを再認識した。